実務で使う法律用語【新人法務担当者必見】
法律、命令、条例、規則、契約書などの法律文書では日常生活で使用しない用語を使用していたり、また日常用語の使用方法や意味とは違っていることがあります。
こういう法律用語の使用方法に関して、明治の法学者の穂積陳重という方が法窓夜話と続編を書いています。その中で、明治初頭の江戸時代の刑法を運用していた頃、裁判官が極度に不足しており、即席で裁判官になった人が、重くない罪の刑事裁判で「不届至極」と大喝して、前科何犯の被告人が仰天したエピソードを載せています。
江戸時代、言い回しで量刑がはっきりわかるようになっていて、重い順に「重々不届至極」、「不届至極」、「不届」「不埒」、「不束」などがあり、「不届至極」は獄門(死罪)で使用される用語です。用語の使用方法を被告人は知っていたが、裁判官は知らなかったという話です。
法律用語には厳密な使用方法や意味があります。そういう法律用語の使用方法や意味について、以下、いくつかの例を挙げて説明します。
「及び」、「並びに」、「かつ」日常用語では、どれも複数の語を繋ぐ接続詞ですが、法律用語としては使用方法が違います。
(1)“A and B”のように同じレベルのものをandで並べる場合には「及び」を用い、「A及びB」のように表現します。
(2)“(A and B) and C”、または“(A and B) and (C and D)”のような異なるレベルのものをandで並べる場合には、大きなandに「並びに」を、小さいandには「及び」を用います。
“(A and B) and C”は「A及びB並びにC」のように、また“(A and B) and (C and D)”は「A及びB並びにC及びD」のように表現します。
(3)「かつ」は「及び」や「並びに」より大きい意味の接続に使用される場合のほか、形容詞句を強く結びつけて一体不可分の関係を表す場合、行為が同時に行われて要件を共に満たさなければいけない場合にも使用されます。
「又は」、「若しくは(もしくは)」複数の語を選択的に結びつける語句です(orの意味)。
(1)“A or B” のように同じレベルのものをorで並べる場合には「又は」を用い、「A又はB」のように表現します。
(2)“(A or B) or C”または“(A or B) or (C or D)”のような異なるレベルのものをorで並べる場合には、大きなorに「又は」を、小さいorには「若しくは」を用います。
“(A or B) or C”は「A又はB若しくはC」のように、また“(A or B) or (C or D)は「A若しくはB又はC若しくはD」のように表現します。
「その他」、「その他の」「A、B、Cその他のD」は、「その他の」の前にある「A、B、C」が「その他の」の後ろにあるDの例示(下位概念)を意味します。
「A、B、Cその他D」は、「その他」の前にある「A、B、C」と「その他」の後ろにあるDとは並列の関係にあることを意味します。
「者」は自然人や法人、「物」はそれ以外の有体物で、「もの」は抽象的なもの等に用います。
さらに、「もの」には独特の用法があり、あるものに更に要件を重ねて限定する場合に「もの」を用います。この場合は、外国語の関係代名詞に当たる用法です。例えば、「○○の行為であつて、次のいずれかに該当するもの」のように用いられます。
「場合」と「とき」は、仮定的条件を示す場合に用いられます。仮定的条件が二段階の場合、最初の大きな条件を表すのに「場合」を、次の小さな条件を表すのに「とき」を用います。
例えば、「行政指導が口頭でされた場合、その相手方から…の書面の交付を求められたときは」(行手法35条3項)のように用いられます。
「時」は、時点又は時間を示すために用いられます。
「遅滞なく」、「直ちに」、「速やかに」日常用語では、どれも「すぐに」の意味ですが、法律用語としては意味が違います。
「遅滞なく」は、時間的即時性が弱く、合理的な理由による遅滞は許されます。
「直ちに」は、時間的即時性が強く、遅滞は許されません。
「速やかに」は、「遅滞なく」より時間的即時性が強く、「直ちに」より時間的即時性が弱い、それらの中間に位置する用語です。
「推定する」は「当事者間の取り決めや反対の事実がない限り、ある事実について法令が一応このように取り扱う」という意味です。当事者間の取り決めや反対の事実を主張することができます。
「みなす(看做す)」は「本来は異なるものを法律上は同じものとして取り扱う」という意味です。当事者間の取り決めや反対の事実があっても、法律上同一に取り扱い、反証はできません。
「乃至(ないし)」日常用語では使用しませんが、法律用語として使用されていることがあります。「A乃至C」は、「AからC(A、B、C)」の意味です。「AまたはC」の意味とは違います。
「蓋し(けだし)」平成の初め頃まで裁判例や法律書などで使われていましたが、最近は、法律の勉強をしている受験生が論文で使用するくらいです。日常用語では「蓋し」は、「思うに」、「考えてみると」くらいの意味ですが、法律用語としては「なぜなら」の意味でも使用されます。
「善意」、「悪意」日常用語では「善意」とは物事や人に対する良い感情・好意、「悪意」とは物事や人に対する悪い感情を意味します。
法律用語としては、「善意」とはある物事を知らないこと(不知)、「悪意」とはある物事を知っていること(知)を意味し、ある物事に対する好悪の感情は含まれていません。
「A以上」、「A以下」、「Aを超える」、「A未満」基準となるAを含むのが「A以上」と「A以下」です。
含まないのが「Aを超える」と「A未満」です。
「…以前」、「以後」、「…(の)前」、「…(の)後」基準となる時(…の部分:例:「10月1日」)を含むのが「…以前」と「…以後」です。
含まないのが「…(の)前」と「…(の)後」です。